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流れに乗り、落ち着いてヒルクライムへ 日向涼子のエタップ・デュ・ツール完走記<前編>
フランスで7月19日に開かれた過酷な山岳サイクリング大会「エタップ・デュ・ツール」に出場し、見事に完走を果たしたモデルでサイクリストの日向涼子さんが、参加レポートを寄稿してくれました。大きな峠を4つ上り、獲得標高は4000mを超え、ほとんどが男性参加者にもかかわらず4人に1人以上がリタイアした難コースを、日向さんはどのようにクリアしていったのか? 2回に渡ってお届けします。
エタップ・デュ・ツールに出場し、峠を快調に駆け抜ける日向涼子さん =2015年7月19日、フランスで撮影 ©Kenji Hashimoto
ツール・ド・フランスと同じコースを経験
今年もツール・ド・フランスが全21ステージの戦いを終えて、閉幕しましたね。私はエタップ・デュ・ツールに出場する直前まで、正直、「エタップに出るなら、ツール・ド・フランスも観ておいた方がいいだろうな」くらいにしか思っていませんでしたが、走り終わった後は、とにかくツールが面白かった!
特に、7月24日に行われた第19ステージは、私が走ったコースとまったく同じなので、「うんうん、いきなり山なんだよね~」「ここ、キツかったなあ…」「ケイデンスが全然違う!」なんて…画面にかぶりつきで観ていました。
この日、ステージ優勝したヴィンチェンツォ・ニバリ選手(イタリア、アスタナ プロチーム)のタイムは4時間22分53秒。エタップで10時間53分10秒かけて走った私の倍以上のスピード! 正確に言うとエタップは計測区間が4km長く、またサイクルコンピューターによると私の走行時間自体は8時間07分38秒ですが、それにしたって次元が違います。しかも、ニバリ選手はそれまで18ステージを走ってきてのタイムですからね。とても同じ人間とは思えません。
「マダム、あなたには無理だ」
今年のエタップ・デュ・ツールのコースは、全長142kmと距離は短いのですが、4つの峠がギュッと詰め込まれ、累計標高は4000m超。
国際興業トラベルの「エタップ・デュ・ツール参戦ツアー」参加者と日向涼子さん(後列左から4番目)
スタートしてすぐに1級ショシー峠(距離15.5km・平均勾配6.3%)への上りが始まります。その後、59km地点からフィニッシュまでは、超級ラ・クロワドフェール峠(距離22.4km・平均勾配6.9%)、2級モラール峠(距離5.7km・平均勾配6.8%)、1級ラ・トシュール峠(距離18.5km・平均勾配6%)という3つの難峠が登場し、長い上りと長い下りの繰り返しとなります。
3つ目のモラール峠は、上りだけ考えれば距離も短く難易度は低めですが、下りはヘアピンカーブが連続し、「特攻向け」と噂されるほどなので、個人的にはここが一番不安でした。そして、間髪入れずに最後の1級ラ・トシュール峠が待っており、今年の大会は関係者に「過去最高に厳しい」といわしめるコースレイアウトでした。
2008年にエタップに参加された片山右京さんは順位を競ったそうですが、そもそも私は「完走すら危うい」レベル。参加を決めてからというもの、多くの友人・知人から、「エタップを舐めるな」と言われたものです。大会出場のため渡仏後、現地のサイクルショップにいたお客さんにも「マダム、あなたには無理だ」と言われてへこみましたが…あの時のオジサン、ちゃんと完走できましたよ~(笑)
そんな私にとって、「マイペース」がエタップ完走のカギでした。
ハイウェイの大渋滞で冷や汗のスタート
ところが、まず出だしでつまずきます。
今年はエントリーが1万5000人以上と過去最高の参加人数だったせいか、ハイウェイの料金所で大渋滞!
このままではスタートに間に合わないかもしれないということで、料金所を出たところから自走で会場へ向かい、ゲート締切時刻の1分前、午前6時44分に何とか到着できました。今回のコースはいきなり1級山岳なので、ヒルクライム前にウォーミングアップ?
日本から参加した国際興業トラベルのエタップ参戦公式ツアーの皆さんと一緒に、スタート地点に向かうバスで記念撮影 ©Kenji Hashimoto
最前列スタートの第一グループはハイレベルな走り屋たちばかり ©Kenji Hashimoto
早朝7時、期待と不安が交錯する中、アルプスの山へと走り出す ©Kenji Hashimoto
私は第1グループでスタートしたのですが、このグループは元プロ選手やセミプロのような人がほとんど。追い越されるばかりの状況に、焦りが募ります。それでも、山岳に入ると全体的にペースダウンしたので、ようやく流れに乗り、落ち着きを取り戻すことが出来ました。
スタート直後からロードレースのようなスピード感に、思わず苦笑い ©Kenji Hashimoto
最初の峠の入口までの3kmほどの平坦区間はみんな飛ばします ©Kenji Hashimoto
峠に入るとようやくペースがつかめてきました ©Kenji Hashimoto
まだまだカメラに向かって手を振る余裕があります ©Kenji Hashimoto
エタップ・デュ・ツールは圧倒的に男性が多いせいか、日本人女性というだけで目立ちます。多くのフランス人男性(ゼッケンに国旗が描かれています)から声をかけられ、和気あいあいと楽しみながら一つ目の峠で15.5kmのヒルクライムを終え、最初のエイドステーションに到着。ラテン調の陽気な音楽が流れ、これから超級山岳が待っているとは思えないにぎやかな雰囲気でした。
ショシー峠のピークに向けて、ラスト2kmは視界の開けた牧草地を駆け上ります ©Kenji Hashimoto
最初のエイドステーションは、1級山岳標高1533mのショシー峠ピーク ©Kenji Hashimoto
まずはひとつ目の峠に到着! 先は長いのでマイペースでいきます ©Kenji Hashimoto
落車事故で2度足止めに
驚いたのは、通常のミネラルウォーター以外に「ペリエ」があったこと。「炭酸水をボトルに入れるの?」と思いましたが、多くの人が1リットルボトルを「がぶ飲み」していました。なんて大胆な!
私は、手前のケージに入ったボトルには持参したクエン酸入りスポーツドリンクの粉を溶かした水を、もう1本には体を冷やすためにかぶるための水を入れ、ウィンドブレーカーを着て、カラダが固まらないうちに最初の峠を下ることにしました。
まもなくツール・ド・フランスを迎えることから、街はにぎわっていました ©Kenji Hashimoto
街の至る所に自転車をモチーフにした飾り付けがされて華やか ©Kenji Hashimoto
ところが下り始めてすぐ、「停まれ!」の声が。少し前で、大きな落車があったようです。動かしてはならない状態なのか、全員が足を止め、救急車を待ちました。
20分ほどの足止めだったでしょうか。救急車が到着し、下山が再開されたのもつかの間、再び足止めに。
また落車です。路面が悪く、道幅も狭いために事故が起こりやすいのかもしれません。
唯一の平坦区間…とはいえ、高低表にはないアップダウンがありました ©Kenji Hashimoto
スプリントポイント区間でアタックを掛けます! ©Kenji Hashimoto
フランスの道路は基本的に荒れていて、ひび割れだらけ。ただ、それも言われるまで気にならなかったのは、今回の相棒となったロードバイクが、振動吸収性をはじめ快適性に優れたトレック「ドマーネ」だったからでしょう。最後まで気持ちよく走ることが出来ました。
ポイント獲得なるか!? まったく圏外でした(笑) ©Kenji Hashimoto
山頂からの眺めは最高!
また、本場アルプスの景色も、疲れを忘れさせてくれました。
村の人たちもエタップが通過することを楽しみにしています ©Kenji Hashimoto
沿道には多くの観客が。声援が次の超級山岳に向けて力になります ©Kenji Hashimoto
超級山岳ラ・クロワドフェールへ突入。コーナーでは勾配の緩いアウト側のラインを走ります ©Kenji Hashimoto
ツール・ド・フランスのスポンサーでもあるヴィッテル。「日本人には合わない」と言われていた硬水も平気でした ©Kenji Hashimoto
続々と自転車を押す人が出てきました。私は降りませんでした! ©Kenji Hashimoto
2つ目の峠、超級ラ・クロワドフェール峠は、勾配が厳しいことに加えて、上り坂の先まで見通しがいいため視覚的にもキツかったけれど、山頂からの眺めは最高でした。
高原植物が咲く美しい峠を駆け抜けます ©Kenji Hashimoto
視界が開けてからも、なかなか峠のピークが現れない超級山岳 ©Kenji Hashimoto
超級ラ・クロワドフェールの手前の標高1924mのグランドン峠でひと休み ©Kenji Hashimoto
普段、ヒルクライム・レースやサイクリング大会のエイドステーションでは最低限の休憩しかしない私も、「これは満喫しなきゃもったいない!」と、芝生でのんびり。まるでピクニックに来たかのようにリラックスしていました。
山頂で気持ち良さそうに寝転がるトレック・ジャパン田村芳隆社長 ©Kenji Hashimoto
辛かったことをやった後だからこそ、特に絶景に癒されます ©Kenji Hashimoto
ただ、ここでかなり時間を費やした間に、暑さが本格化。今年のフランスは例年にない猛暑だった上、私は日焼け対策のためにアームカバーとタイツを身につけた黒子状態。(暑さに慣れていないフランス人からは、”Are you crazy!?”と驚かれることもありました)
エタップ・デュ・ツールに参加する人のほとんどは仕上がった肉体をしていて、ひと目で本格的なサイクリストだと分かります。それだけに、女性も日焼けを気にしないのか、半袖またはノースリーブのジャージ。タイツも履かず、おそらく皆が“レーパン焼け”をしているのでしょう。暑苦しい格好をしているのは私だけでした。
グランドン峠の2kmほど先、ここが超級ラ・クロワドフェールのピーク ©Kenji Hashimoto
標高2067mの超級ラ・クロワドフェールのピークにて ©Kenji Hashimoto
ただ、私は日本の蒸し暑い夏で生まれ育ったし、日焼けをして体力を消耗するよりは、暑苦しい格好でいる方が慣れています。エタップでは雪が降る年もあるとのことで、寒さに弱い私はむしろ低体温症になる恐怖の方が強く、そちらの対策ばかりしていました。
今年は4人に1人以上がリタイアしたとのことですが、暑さへの耐性も私が完走できた理由のひとつかもしれません。
最後の峠、1級ラ・トシュール前に水浴び。生き返る~! ©Kenji Hashimoto
(レポート・撮影 橋本謙司)
https://cycle-concierge.jp/archives/6333
<後編>過酷だけれど最高に贅沢なイベント
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